細部まで神々が宿っている黒澤監督作品を話し出すと、こちらも止まらなくなってしまいますが、せっかく黒澤明が登場したので、その名言を紹介しましょう。
「悪魔のように細心に!天使のように大胆に!」
まさしく映画を作るための名言といってもいいでしょう。
1975年に刊行された黒澤明作品集のタイトルに使われた言葉です。
リアリティを出すために映らないところまで細心の演出をする一方で、リアリティを出すためにリアルではあり得ない大胆な演出をするのが映画です。
薬箱の引き出しの中を漆で塗る一方で、黒澤監督はイメージ通りのパンフォーカス撮影するためにセットでは強い照明を当てることもまた有名な逸話です。
「悪い奴ほどよく眠る」のワンシーンではあまりに強い照明だったために守山演じる志村喬は「髪は燃えるほど熱く、テーブルのフォークやスプーンは熱くて持てなかった」と後に供述しています。
「天国と地獄」は後に誘拐犯に対する刑罰を改正させたほど影響力のあるリアリティを持っていましたが、身代金受け渡しに使われた「こだま用国鉄151系電車」は1編成をチャーターし、実際に東海道線上を走らせて撮影しました。
まさしく細心と大胆が入り混じっているリアリティです。
…だったら天使が細心で悪魔が大胆じゃないか、って?
それじゃ、まったく面白味がないでしょう?